第10回 米国の福利厚生税制(その2)
1. 社有車のフリンジベネフィットの価値算定基準
雇用者が供与したベネフィットの価値算定はこのルールに基づいて決定しなければなりません。殆どの場合は、「一般ルール」を適用しなければなりませんが、特定のベネフィット算定に対して「特別ルール」の適用が認められています。
一般ルール(General Valuation Rule)
雇用者がベネフィットの価値を算定する時、原則としてこの一般ルール、すなわち公正市場価格または時価(Fair Market Value)を適用しなければなりません。恣意的に決定されるのではなく、独立した第三者と取引するのと同じ条件の価格でなければなりません。
会社が従業員に私有車を与えた場合、ベネフィットの時価は、従業員が同様の車を同条件でリースするために第三者に支払わねばならないリース料です。時価を走行した距離に基づきリース料を支払う契約または証明できない限り、走行ベースでベネフィットの価値を算定することはできません。
マイレージルール(Cents-Per-Mile Rule)
社有車を従業員が私用で使用した場合、業務行為以外で走行した総マイル数に一定の料率を掛け、ベネフィットの価値を算定するものです。算定された金額は、従業員が雇用者に支払うか、雇用者が従業員の賃金給与に加算しなければなりません。毎年変更される事がありますが、2014年1月1日以降,1マイルにつき56.0セントです。
この料率には、車の維持費や保険のコストも含まれています。
尚、社有車が一定金額以上の高額車・4輪駆動車、通常業務使用していない車、年間1万マイル相当以下しか走行しない車などは、このマイレージルールは使用できません。
通勤ルール(Commuting Rule)
従業員が社有車で通勤している場合、従業員は「片道、1ドル50セント」を雇用者に支払うか、または雇用者は従業員の賃金給与に加算しなければいけません。但し、「幹部社員(Control Employee)」すなわち2014年度の場合,報酬$105,000ドル以上のオフィサー、取締役、賃金給与21万ドル以上の従業員、1%以上所有の株主などはこのルールを適用されませんが、雇用者は「高額報酬従業員基準」すなわち5%以上の株主または報酬$115,000ドル以上または従業員の上位20%の高給を受けている従業員に適用しないルールに代替することができます。
リース価値ルール(Lease Value Rule)
これは4輪駆動車に適用されるルールで、まず車の時価を決定し、規定の表から「年間リース価値(Annual Lease Value)」を算定します。例えば時価3万ドルの車の年間リース価値は$8,250と決まります。これを従業員が社有車を占有していた期間または日数に案分して、社有車の私用価額を算定します。
この価額にはガソリン代は含まれていませんので、もし会社がガス代を払っていれば、従業員に求償するか従業員の賃金給与となります。
その他の重要な経営管理事項
オレゴン安全保安基準
すべてのオレゴン州の事業所はオレゴン州の安全保安基準(State's Occupational Safety and Health Standards = OR-OSHA)を守る義務があります。11人の従業員のいる企業は、社内に「安全委員会」を設置しなければなりません。
たとえ11人未満の企業でも、危険な労働を伴う産業や労働災害率の高い事業の場合も安全委員会を設けなければなりません。
Portland, Salem, Eugene, Bend, Medford, Pendleton にOR-OSHAのオフィスがあり、企業の相談にのってくれます。
移民法上の義務
雇用者は、従業員から米国移民帰化局(U.S. Immigration and Naturalization Service = INS)のI-9フォームを徴求する義務があります。I-9を提出すると同時に従業員は米国市民・永住者であるか又は米国での就労許可がある旨、提示しなくてはなりません。雇用者はこれを確認・コピーを保管する義務があります。
生活保護受給者の雇用報告
オレゴン州の雇用者が生活保護受給者を雇用した時、20日以内に法務省に報告をする義務があります。
雇用者に掲示が義務付けられているポスター
オレゴン州の雇用者は、従業員のためにいくつかのポスターの掲示が義務付けられています。ポスターは主としてオレゴン州労働産業局(Bureau of Labor and Industries = BOLI)から制定されています。
最低賃金(Minimum Wage):オレゴンおよび連邦の最低賃金に係るポスターで、オレゴン州の全事業所が義務付けられています。
オレゴン家族疾病休暇(Oregon Family Leave Law):オレゴン州に25人以上の従業員を有する雇用者に掲示が義務付けられています。
家族疾病介護休暇(Family and Medical Leave Act):連邦の家族疾病看護休暇法のポスター。
ポリグラフ保護法:連邦法による義務。
雇用機会均等法(Equal Employment Opportunity):15人以上の雇用者。米国身障者法(ADA)も含む。
安全保安:1人以上雇用している雇用者。裏面にスペイン語で書かれているもの。OR-OSHAが無料で提供。
労災保険証明書(Notice of Compliance):1人以上雇用している雇用者。
雇用保険証明書(Employment Insurance Notice;フォーム11):1四半期に$225以上の賃金を支給しているか、一人以上の従業員を年間18週雇用している雇用者。オレゴン州のID番号をとると州雇用局から自動的にポスターが郵送されます。
移転価格規制
米国の移転価格規制の罰則が強化されています。移転価格とは日米間の関係会社間で所得の移転がなかったか、即ち関係会社間の取引が公正に行われ、米国で得られるべき所得が妥当に所得申告されているか、という問題で、米国税法は企業が妥当性を説明する書類をアップデートにして準備しておくことを義務づけています。米国移転価格税法に基づき、関係会社間の取引が第三者取引と同様である(Arm's Length Standard)旨を、税法で許容された移転価格決定方式の中から最も相応しい方式(Best Method Rule)を利用し、一定の移転価格範囲(Arm's Length Range)を策定し、適用価格がそのゾーンに収まっていることを検証します。それらの検証過程を全て書類かしておく必要があります。
就業規程
就業規程は、会社の方針や手続き、従業員に与えられる待遇・福利厚生、職場での行動基準・運営など、あらゆる労働条件について規定しているもので、いわば会社と従業員の間の雇用関係のルールとなります。米国では必ずしも就業規程を備えることを義務付けてはいません。しかし就業規程の存在は、従業員や当局との間に不測の論争・訴訟等があった場合に、会社にとって不可欠なものです。
日本人派遣駐在員の処遇問題
米国に於ける日本人派遣駐在員と現地採用従業員との給与等の格差問題は、しばしば差別に相当するのではないかとの微妙な問題を含んであおり、神経質になる問題です。
しかしあまり神経質になり、隠そうとしたり、ごまかそうとしたりすると、かえって疑いや誤解を生ずる場合があり、逆効果です。駐在員の給与格差は、できるだけ秘密裏にせず、本社の海外駐在員規程を含めむしろ差別がないことを説明する合理的な会社方針を打ち立てることが賢明な施策と思われます。
一般的には、本邦親会社が米国子会社等に派遣する日本人駐在員の処遇については、株主権の行使として原則として問題になるものではありません。
また、駐在員が会社の命により日米両国に生活拠点を営まざるをえず、こうした駐在員に対する日米両国における二重報酬制度をとらざるを得ないことは、勿論米国雇用法上問題とはなりません。基本的には親会社の従業員として報酬を受けつつも、駐在地の追加的経費や手当ての支給を受けるという考えです。但し、これが米国で差別ではないと考えられるためには、本邦親会社が海外現地法人等から受け入れる本邦駐在員にも人種・国籍・性別等の差別なく同様の考え方を適用するという方針が大変重要です。
在日米国法人も派遣駐在員に対し、当然「二重報酬制度」を採用しています。彼等も米国給与に本邦駐在手当てや補助を増額して支給しています。
さらに日米両国間で、日米友好通商航海条約が存在しています。米国に於ける日本人駐在員は日本の市民権を持ち、本社の命により派遣され、株主としての親会社の投資の経営管理をする使命があり、親会社の従業員としての地位を保持していれば、日米友好通商航海条約で身分が守られています。