米国大統領選挙と民主主義

米国大統領選挙と民主主義

2020年11月、4年ぶりの米国大統領選挙が実施されました。

これまで何回か大統領選挙を経験しましたが、私達は市民権を取っておらず、いわゆる永住外国人ですので選挙権は無く、従って政治活動や献金も法で禁じられていますので、仕方がないことなのですが、今回の大統領選挙ほど関心をもったことはありません。

その理由は、トランプに米国大統領の資質と品格に、そして打ちだす政策や言動、税制改革に大きな疑問があったからなのだと思います。

 米国は、私どもの若いころからの「正義の味方」「世界・人類のリーダー」であり、世界人類に何かあると、米国が正してくれる、という夢があったのだと思います。しかしトランプになってから、それらが崩れだし、「中世の王様」然とした彼の言動は、言ってみれば、彼を支持する一部の仲間の便益のためであり、自己を省みず人事権で嚇す独裁者的手法であり、政治がビジネスと化し、利己のための施策であり、まるでヤクザの親分が世界を闊歩しているようでした。そのために米国社会の分断を煽り、その溝をより深くしているのは由々しいことです。さらに任期後半は、全てが自分の再選のための露払い的政策ではなかったでしょうか。

 私見になりますが、トランプの犯した罪を箇条書きにまとめると:

 (1)新型コロナウィルス対策の無視(米国が地球上で最も蔓延しているにも関わらず);

(2)再選のための支持者利益の為の政治・経済優先主義(経済が悪いと現役の大統領が選挙で負けるジンクスあり=ブッシュ父の二期目の敗戦);

(3)世界各国が懸案としている地球温暖化の無視(これも支持者の経済優先主義);

(4)世界での各種協定の反故(イラン核合意、核兵器削減条約、WTO、WHO、国連、NATO、TPPなど)

(5)米国民の分断化とそれを煽動する言動;銃規制無関心;人種や宗教の差別的言動;

(6)Obama、民主系州知事または州の毛嫌いと嫌がらせ;

(7)人事権と権力の乱用;中世の王様的言動;

 

さて翻って、米国の大統領選挙で、個人的に改めて疑問に思うことがあります。

一つは、大統領選挙の「制度」そのものです。

米国の大統領選挙制度は、ご高承のとおり、「選挙人方式」を採用しています。すなわち各州に人口に応じて選挙人を割り当て、その州で勝った候補に、原則として選挙人の総取りを認めているのです。ごく一部の州では、特定の都市部で勝った候補に1票を分配とかの特例を設けています。オレゴン州は昔から選挙人7人の総取り方式で、1980年代以降、全米でも有数の人口流入増の州なのですが、選挙人はずっと同数のままです。他の州も大なり小なり、変更は無いと思います。ちなみにカリフォルニア州は55人、ワシントン州は12人です。

全米で過半数の選挙人、270人を獲得すると大統領当選となりますが、今の世の中、ほぼ同時に投票総数が示されています。すなわち世界に誇る民主的な国家である米国が、最も民主的な「投票総数が即刻把握出来る」のに、なぜ選挙人方式を採用しつづけているのか?これは連邦国家のためのやむをえぬ制度なのか、あるいは政治家もマスコミも大学も研究調査機関も、制度を見直す問題提起がない為なのか、よくわかりません。これが民主主義の宗国である米国の真の民主主義に相応しい制度か、という疑問です。ずっと昔にブッシュ子大統領とゴア元副大統領との大統領選ではゴア氏が50万票多かったにも拘わらず、選挙人でブッシュ子が大統領となりました。4年前のトランプとクリントン氏の大統領戦ではクリントン女史が2百万票多かったにも拘らず、選挙人が多かったトランプが大統領となりました。これが真の民主主義かどうか、疑問に思うところであります。

 さらに大統領が選挙で決まらない場合、最終的に下院の議決で決められるのですが、それが下院議員全員の投票ではなく、各州一票の投票で決められるのです。オレゴン州の10倍の人口を擁するカリフォルニア州もオレゴン州も同じ一票なのです。これこそ民主主義と言えるのでしょうか?基本的には民主主義の基本は多数決です。

日本でも一票の格差が憲法問題となっていますが、これほど一票の格差が顕著な制度はありません。今回のトランプの我が儘で破廉恥な法廷騒動は、この盲点を突いているのかもしれません。民主主義の宗国である米国の制度として、果たして妥当なのかどうか、首をかしげることとなりました。

 今回のバイデン新大統領は、四百万票以上の得票差があったので、全く異論はないのですが、近年各州ともに人口が流入しているはずですから、改めて最適な制度の見直しを検討しても良いのでではないかと思います。米国民の分断が顕現化し、口きたなく罵りあいをしているわりには、こんなに弁護士の多い国家なのに、制度をより公正な民主主義に適合するよう是正しようとの声が一向に上がる気配がないのは、不思議です。何か部外者にはわからない他の理由があるのかもしれません。

 民主党・バイデン大統領が勝ったというより、米国第一主義・国際協無視・コロナ無視するトランプの基本方針に対する退陣を望む米国国民の「良識」の声だったのだと思います。

 世界をリードする大国のリーダーは、基本的には、支持者や支持基盤の利益追求や実現を目指すのではなく、『人類世界やその国が世界と共に歩むべき方向を真摯に見極めて、地球政策を考え、実現することに努力するのが責務』でしょう。それが大統領の『資質』と思います。

 米国内で第二の南北戦争が起こらぬ事を、そして世界の指導的な国に戻ってくれることを切に望みたいと思います。

(2020年11月記)