第9回 米国の福利厚生税制(その1)
(1)フリンジベネフィットとは…
フリンジベネフィット(Fringe Benefits)とは、雇用者の福利厚生制度が提供した待遇などにより得た所得をいい、一種の役務の提供に対する対価の一形態とみなされます。
例えば、従業員に対し通勤のために社有車を提供した場合、これは雇用者が当該従業員に「フリンジベネフィット」を供与したことになり、当該従業員の給与となります。
こうした従業員に対するいかなるフリンジベネフィットでも給与税の課税対象所得となり、得に例外として規定されていない限り、当該従業員の給与又は賃金に付加されねばなりません。そしてこれらは給与税の課税対象となり、W-2に含める必要があります。
ベネフィットを享受するものはなにも従業員に限ったことではありません。従業員以外の者がベネフィット享受した場合は、フォーム1099-MISCを申告することになります。
(2)カフェテリアプラン
カフェテリアプランとは、従業員が給与所得から控除できる適格福利厚生制度や課税対象となる非適格福利厚生制度の中から自由に選択できる「文書化された福利厚生制度」をいいます。
もし従業員が適格福利厚生制度を選べば、それらに伴うベネフィットは従業員の給与とはなりません。
適格福利厚生制度(Qualified Benefits)とは、次のものをいいます。
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健康傷害保険(一部の医療貯蓄勘定や長期介護保険を含まず。)
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里親補助制度
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扶養家族介護補助制度
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生命保険補助制度
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医療貯蓄勘定
カフェテリアプランを採用している雇用者は、年度終了後7ヶ月目の月末までにフォーム5500(Annual Return/Report of Employee Benefit Plan 及びスケジュールF)を申告しなければなりません。
(3)給与と見なされないフリンジベネフィットの特例
連邦所得税法上、フリンジベネフィットは原則として従業員の給与とはならず、給与税の対象外となり、従ってW-2の給与所得に含まれません。
雇用者が所得控除できるフリンジベネフィット経費は以下の項目です。これらは、特に明記されていない限り、原則として従業員の給与とはならず、従って給与税の課税対象とはなりません。
(1)健康傷害保険(Accident and Health Benefits)
雇用者が支払った従業員の健康傷害保険料及び保険金や、保険でカバーされない医療費を会社が負担した場合も含みます。
(2)業務上の支給物(Achievement Awards)
雇用者が永年勤続や安全のために従業員に支給した物品です。但し、限度があり、適格な報賞制度がある場合は年間1,600ドル以下、ない場合は年間400ドル以下の物品に限り給与所得とはなりません。しかしながら、現金、現金に相当する物、商品券、休暇、食事券、宿泊券、そのた観覧切符、有価証券などは「給与所得」となります。
(3)縁組み補助金(Adoption Assistance: Pub. 968)
会社に明快な制度がある適格な養子縁組みの場合に。手当ての所得税控除が認めらます。但し、FICAや連邦失業保険などの給与税の課税対象所得となります。
(4)運動施設(Athletic Facilities)
雇用者の敷地内にある運動施設での従業員や家族の利用費用は、従業員の給与所得とはなりません。但し、雇用者の保養施設などは対象外です。
(5)少額の福利費(De Minimis (Minimal) Benefits)
少額の福利費とは、ほとんど考慮に値しない価額の物品やサービスの供与で、恒常的でないものをいいますが、現金は会食や交通費を除き少額の福利費にはなりません。例えば、少額の福利費とは、コピーの私的使用、祭日のギフト(除く、現金・有価証券)、2,000ドル以下の家族死亡見舞金、パーティー、ピクニック、劇場スポーツ観覧切符、交通費、私信作成のための秘書の利用、グループ会食などです。
(6)家族介護補助(Dependent Care Assistance)
雇用者が策定したプログラムの下で、直接間接の家族介護に係る補助金です。これらの補助金は従業員の給与所得になりません。但し、夫婦合算申告の場合で年間5,000ドルが限度です。(個別申告の場合は2,500ドル。)
一方、当該従業員が5%以上の持分を所有している場合、または年間115千ドル以上の給与賃金を支給され、かつ年収が従業員の上位20%にランクされる従業員の場合は、本項の適用の対象外となります。
(7)教育補助(Educational Assistance)
雇用者が策定したプログラムの下で、教育補助金を支給した場合も控除対象となり、従業員の給与とはなりません。大学院レベルの教育補助も対象とすることができます。
教育補助には、教科書、教育機器、謝礼・手数料、文具類、授業料などが含まれます。但し、スポーツ、ゲーム、趣味などで業務に合理的に関係するものや学位をとるために必要なものでない場合は、本項の対象外です。
教育補助金は、一般的には年間5,250ドルまでは従業員の給与に含めなくていいのですが、たとえ超過しても、それらが業務上必要な教育または教育施設であれば、ビジネス経費または減価償却として損金参入することができます。但し、高給所得従業員の適用制限があります。
(8)従業員割引(Employee Discounts)
不動産や有価証券等を除く物品やサービスを従業員または退職した従業員に割引販売する場合、これらも所得控除することができます。またこれらを第三者に対する販売価格の20%引き以内であれば、従業員の賃金給与として扱う必要もありません。但し、これも高給従業員に対する適用制限があります。
(9)ストックオプション(Employee Stock Options)
従業員に対するストックオプションには、次の三つの方法があります。
a. インセンティブ・ストックオプション(Incentive Stock Options)
b. 従業員株式購入プラン(Employee Stock Purchase Plan Options)
c. 非適格ストックオプション(Non-Qualified=Non-statutory Stock Options)
連邦所得税法上、インセンティブ・ストックオプションと株式購入プランは、オプションが供与された時も、実行された時も、従業員の賃金給与には含まれません。しかし、実行(取得)価格とその時の株価(時価)との差額は賃金給与とみなされ、実行した時点で、給与税の課税対象となります。但し、連邦の源泉所得税は、実行時点で賦課されません。
一方、非適格ストックオプションの場合は、実行時に賃金給与とみなされ、連邦所得税の源泉徴収が義務付けられ、かつ実行価格と時価との差額に対しても所得税とFICAが賦課されます。
(10)団体生命保険料(Group-Term Life Insurance Coverage)
次のすべての要件を満たせば、損金参入することができます。
* 所得とならない一般的生命保険であること。
* 10人以上の正社員に適用していること(10人ルール)。
* 従業員の年令、勤続年数、給与、職制などに基づき、保険金に一定の算式があること。
* コスト負担に拘わらず、プログラムを会社が運営管理していること。
尚、この制度には、旅行保険とか事故保険といった、いわゆる一般的生命保険でないものは含まれません。
また従業員の家族に対する生命保険は含まれませんが、この場合、少額の福利費(De Minimis Benefit)で控除できる場合もあります。
団体生命保険料は、原則として従業員の賃金給与とはならず、給与税の対象ともなりませんが、保険料が5万ドルを超えると、超えた金額に年令により一定の料率を乗じた金額がFICA税の対象所得となります。
(11)医療貯蓄勘定(Health Savings Accounts=HSAs)
従業員が保有する医療貯蓄勘定に対する拠出金は、給与とはならず雇用税の対象外となります。本人のみをカバーする場合は,年間最低$1,200以上($6,050限度),家族込みの場合は,最低$2,400以上($12,100限度)の拠出が必要です。なお雇用者も、本人のみの場合は$3,100、家族の場合は$6,250まで非課税で拠出する事ができます。
(12)住込み費用
次の要件を満たす場合、住込みによるコストは所得控除することができ、従業員の賃金給与にもなりません。
* 職場に住込み施設が備わっていること。
* 使節が妥当な環境にあること。
* 雇用条件として住込みを従業員が受容していること。
(13)食事費用
● 少額の食費
雇用者が従業員に供与した食事または食事代は、どの程度頻繁に供与されているかにもよりますが、合理的に少額でれば、損金として控除することができます。例えば、コーヒーやドーナッツ、ソフトドリンク、残業のための散発的な食事、ピクニックやパーティー、社内の社員食堂の食事費用がこれに適用されます。但し、従業員が5%以上の株主/出資者または11万ドル以上のいわゆる高給従業員には本項は適用されません。
● 社内での食費
社内で雇用者が従業員に提供した食事費用は、損金参入できると共に、従業員の賃金給与とはなりません。
(14)引越費用(Moving Expense Reimbursements)
従業員の引越費用は、所得控除することができます。引越費用には、家財道具の運送費用の他、引越に伴う旅費や宿泊費も含まれますが、食費は含まれません。
これらは従業員の賃金給与とはなりませんが、雇用者が従業員に引越費用を直接支払った場合、W-2の所定欄にその金額を報告しなければなりません。
(15)非追加費用サービスの供与(No-Additional-Cost Services)
雇用者が追加費用の発生しない通常の業務上のサービスを、従業員に無償または割安価格で供与しても、これらは所得控除可能であり、従業員の賃金給与にもなりません。例えば、航空会社やホテルが営業施設を従業員に利用させることなどがあげられます。また2社以上がレシプロ契約を締結し、従業員が相互に利用する場合も該当します。
(16)退職年金制度(Retirement Planning Services)
雇用者が制度説明等に供した費用は損金参入できます。ただし,従業員の為の確定申告作成費用,会計法務仲介費用、及び高額所得従業員に対する費用などは対象外です。
(17)通勤費(Transportation (Commuting) Benefits)
少額の交通費 (De Minimis Transportation Benefits)
散発的に発生する合理的な少額の交通費を従業員に支給した場合、これらは所得控除することができ、従業員の賃金給与にもなりません。
所得控除可能な通勤費(Qualified Transportation Benefits)
次にあげる通勤費用の支給については、損金参入することができます。
1)社有バンでのカープール
2)通勤定期代
3)駐車料金
4)自転車通勤(自転車購入補修費用補助)
但し、次の制限があります。制限金額は年度毎にレビューされます。
上記1)と2)の合計額が月間125ドル限度。
上記3)は月間240ドル限度。
上記4)は月$20限度。
上記の限度額を超えて支給した場合は、従業員の賃金給与として加算しなければなりません。これらの超過分を「少額の交通費」として支給することはできません。
(18)労働条件に対する補助(Working Condition Benefits)
従業員の業務遂行のために雇用者から供与された物やサービスで、それらが経費や減価償却として控除できるものである限り、従業員の所得とはなりません。例えば、従業員の業務上の社有車の使用や業務上の訓練教育費用などです。従業員が業務上の経費を立て替え、会社が現金で従業員に弁済したものも、これに当たります。
但し、会社が従業員に供与した一種の小口現金勘定や健康診断費用、業務外の支出はこれに該当しません。
もし雇用者が従業員に私有車を貸与した場合、会社が本項に該当する控除が可能なのは、個人は支払った業務上の経費と認められる部分だけに限られます。これは後述の私有車の業務使用の項目が適用されます。
一方、本項に基づき控除する代わりに、雇用者は年間の車のリース料を従業員の給与賃金に加える方法もあります。この場合従業員は従業員個人の確定申告で項目別控除として所得から控除することができます。この方法を採用する場合は、後で述べる「リース価値ルール」を使用している場合に限ります。
(19)会社支給の携帯電話(Employer-Provided Cell Phones)
業務上会社から支給された携帯電話は,労働条件の一環として給与と看做されません。またその個人使用もDe Minimis Benefitsとして給与となりません。