第2回 現地法人設立の前に(その一)

1. 特許権、著作権、商標権の保護

 

米国で事業をするにあたり、貴社の特許や著作権など、貴社が開発した無形資産を保護することが大切です。米国においては、特許は米国商務省の特許商標委員会で公表されて始めて、貴社の独占使用権と独占販売権が認められます。

特許権

特許を登録したい場合は、手続きが詳細に亘りかつ技術的なことが多いため特許専門の弁護士又は弁理士事務所を利用するのがいいでしょう。もし十分な時間的余裕があり、事前におおまかな調査をしたい場合は、ポートランドのルイス&クラークカレッジ(Lewis and Clark College)のノースウェスタン法律大学院(Northwestern School of Law)のボリー図書館(Boley Law Library)が、オレゴンの特許商標保管図書館として指定されており、米国特許商標局とコンピュータでつながっていますので、専門の担当者にやり方を教えてもらい、自分で調査することができます。この場合、図書館の担当者は教えてくれるだけで、本人が教えられた通りの手順で自ら調査をしなければなりません。またポートランドの米国政府刊行物センターで、”General Information Concerning Patents”という小冊子も販売しています。

著作権

著作権を保護するためには、特別の手続きはいりません。実際の創作物があればいいのですが、実際に米国国会図書館に登録すれば、より明確に保護されます。

商標権

商標の登録は任意ですが、実際に使用している商標を登録することができます。同様なまたは混同をひき起こすような商標があれば、登録することができませんし、無断で使用することができません。

オレゴン州で商標を使用するとき、オレゴン州企業局に”Application for New Trade and Service Mark Registration”を提出します。登録料は50ドルで5年間有効で、5年ごとに更改します。

オレゴンでの商標登録をする前に、以前に同様な商標が使われていなかったか連邦で商標をチェックするほうが賢明です。連邦の商標に係わる情報は、上記のボリー図書館で得られます。

連邦の商標は、実際に使用されていて始めて商標権が発生することが法律で規定されています。これから新たに使用する者は、商標を使用する申請を米国商務省にします。連邦の有効期限は10年で、10年毎に更改しなければなりません。しかし登録者は登録後5年から6年後の間に、商標を現在使用している旨の「宣誓書」を提出しなければならず、失念すると商標登録は取消されてしまいます。ポートランドの政府刊行物サービスセンターに”Basic Facts About Registering a Trademark”という小冊子が販売されています。また米国特許商標局に無料のコピーが用意されています。

 

2.  法人名と法人形態の選定

個人の自家営業(Sole Proprietorship)、他の人と共同の事業(General Partnership)、独立法人(Corporation, Limited Liability Company, Limited Liability Partnership, Limited Partnership)などの事業形態があります。それぞれの事業形態には法律上及び税務上、一長一短がありますので、選定にあたっては弁護士や会計士に相談するのがいいでしょう。
 
法人登記は、オレゴン州企業局に申請します。登記にはファックスの場合は通常約3日以内で完了しますが、直接持参しますと即日登記が完了します。またUPSやFedExのような速達便で企業局の「カスタマーサービスデスク」に配達されたものは、24時間以内に登記されますが、郵便局のオーバーナイト便はデスクまで届けられませんので、通常の郵便と同じ扱いになりますので、注意が必要です。
 
A. 自家営業(Sole Proprietorship)
 
個人が事業をする場合の最も簡単な事業形態です。当該個人は、個人的に事業に係るすべての法的責務を負わねばなりません。即ち、自家営業の損益は個人の所得となります。
一方、個人が何らかの営業上の名前を使用しない限り、登録する必要はありません。すなわち個人の名前以外の何らかの名称を使用する場合は、通常の法人登記が必要です。
 
B. ジェネラル・パートナーシップ(General Partnership)
 
二人以上で共同で事業をする場合の事業形態で,日本企業とは別法人と見なされます。すべてのパートナーが共同事業の法的責務を負わなければなりません。ジェネラル・パートナーシップの場合も特定の営業上の名前を使わない限り、法人登記をする必要はありません。もしパートナー個人の名前を表記したくないのであれば、登記しなければなりません。
パートナーシップは、通算業態(Pass-Through Entity)で、パートナーシップ自体には課税されず、それぞれのパートナーに損益が通算されます。
 
C. 株式会社(Corporation)
 
株式会社はオレゴン州に会社の基本定款(Articles of Incorporation)を届けることにより、オレゴン州法の下で設立されます。株式会社は、通常資本家たる株主によって所有されています。基本定款は株式会社の授権資本株式数を明記していなければなりません。
 
株式会社は、一法人として独立した法人行為を行うことができます。たとえ株主が変更されても、法人行為を続けることができます。一独立法人として、株式会社は確定申告をする義務がありますし、資産を所有し、また提訴し、または訴訟を受けることもあります。
 
株式会社は、取締役会で経営の基本政策が策定されます。第一回の設立取締役会を除き、取締役は株主によって選任されます。取締役の人数は基本定款または付属定款(Bylaws)で規定されています。設立取締役会は社長及び秘書役を選定し、そして付属定款を採択します。さらに取締役会がその他の執行役員を選任または任命するか、または付属定款でどのように他の執行役員を選任するかを規定することになります。同一人物が二つ以上の役職に就くこともできます。それぞれの株式会社は、オレゴン州に「登録代理人(Registered Agent)」を登録しなければなりません。訴訟などの法的書類がある場合、政府から直接登録代理人に送られるからです。登録代理人はオレゴン州の居住者であれば、法人でも個人でもかまいませんが、責任の性格上、弁護士に委託するのが通常です。
 
オレゴン州には株式会社として、営利株式会社(Business Corporations)、非営利株式会社(Non-Profit Corporations)、専門サービス株式会社(Professional Corporations)の、三つの形態が典型的です。
 
営利株式会社は、一般の営利を目的に事業を展開する株式会社です。
 
非営利株式会社は、法人行為をするために設立されたもので、営利を追求しない株式会社です。
 
専門サービス株式会社は、営利を目的とする特定の専門的サービスを提供する株式会社で、株主の全員が専門的サービスを供与するための公的資格を有していなければなりません。
 
株式会社には、オレゴン州法に基づいて設立された「自州法人(Domestic Corporations)」と、他州または外国で設立されオレゴン州で事業を営む「州外法人(Foreign Corporations)」に分類することもできます。
 
自州法人設立のためには、オレゴン州企業局に基本定款を$100.00の登録料を添えて届け出ます。
 
基本定款を届け出る前に、法人名や取引に使用する略称が他社と明らかに区別できるものでなくてはなりません。基本定款が法に沿ったものである場合、州企業局は法人の創立日を押印し基本定款の写しを返却します。
 
法人が法的に設立されますと、一般的には創立取締役会を開催し、付属定款の採択と執行役員を任命します。付属定款は、合法的かつ基本定款に沿った通常の法人行為を遂行するにあたっての規制または権限移譲等につき規定しています。
 
尚、S法人については、州企業局の管理下にはなく、これは連邦税法上で特別に許容された税法上のステイタスですので、S法人のステイタスをえたい場合は、FORM2553 “Election by a Small Business Corporation”にて別途IRSに申請しなくてはなりません。
 
他州法人がオレゴン州で事業をする場合も、登録代理人を指名し、$275.00の登録料を支払わなければ事業を遂行できません。
 
会社の存在を証明する設立州の書類を、申請日から60日以内に提出する必要があります。
 
D. 有限責任会社(Limited Liability Company = LLC)
 
LLCは一人以上のメンバーを有する非株式会社形態ではない事業体で、日本企業とは別法人です。LLCはメンバー又はマネージャーによって運営管理されます。マネージャーはメンバーである必要はありません。LLCがマネージャーによって運営管理される場合、基本定款にその旨明記されていなければなりません。株式会社に例えれば、メンバーは株主に、マネージャーは取締役会に相当します。
LLCの社内の運営は、口頭か書面かに係わらず一つ以上のオペレーティング契約(Operating Agreements)によりなされます。これらはいわば、株式会社の付属定款のようなものです。
LLCもオレゴン州に登録代理人を届けなければなりません。
またオレゴン州法に基づくLLCも「自州(Domestic)LLC」と呼ばれ、他州法で設立されたLLCを「他州(Foreign)LLC」といいます。
 
自州LLCを設立する場合は、基本定款(Articles of Organization)に$100.00のフィーを添え、オレゴン州企業局に申請します。この場合も株式会社同様、名前が酷似しているものは受け付けられません。また名前の最後にLLCであることが明らかに分るように、例えば”LLC”をつけなければいけません。州から返送された基本定款にある日付がLLCの創立日です。
LLCの経営は、基本定款に特に一人以上のマネージャーによるとの明記されていない限り、メンバーによって執行されます。もしマネージャーによる場合には、メンバーは所謂パートナーシップ形態に例えれば、有限パートナー(Limited Partner)の存在になります。メンバーになるためには、現金、資産現物、または役務提供などの出資をしなければなりません。
 
他州LLCがオレゴン州で事業を行う場合、同様にオレゴン州の登録代理人を指定した上で登録費用として$275.00を添え州政府に申請し、認可を受けなければなりません。その他は株式会社の他州法人の場合と同様です。
 
米国税法上、LLCは、通算業態(Pass-Through Entity)で、LLC自体には課税されず、それぞれのメンバーに損益が通算されます。
 
E. リミテッドパートナーシップ(Limited Partnership)
 
すべてのパートナーシップは日本企業とは別法人です。リミテッドパートナーシップは、少なくとも一人のジェネラルパートナー(General Partner)と一人のリミテッドパートナー(Limited Partner)から成り立ちます。ジェネラルパートナーはパートナーシップの運営を行い、債務履行に無限責任を有しています。一方、リミテッドパートナーの責任は、株式会社の株主の如く有限責任であり、原則としてパートナーシップへの出資金の範囲に制限されています。
 
パートナーシップの場合も同様に、オレゴン州に登録代理人を届けなければなりません。オレゴン州法に基づくリミテッドパートナーシップを「自州(Domestic)リミテッドパートナーシップ」といい、他州法に基づくリミテッドパートナーシップを「他州(Foreign)リミテッドパートナーシップ」といいます。登録費用は自州が$100、他州が$275で、手続きや規定等はLLCの場合と同じです。
パートナーシップは、通算業態(Pass-Through Entity)で、パートナーシップ自体には課税されず、それぞれのパートナーに損益が通算されます。
 
F. 有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership = LLP)
 
LIMITED LIABILITY PARTNERSHIP (LLP)は、オレゴン州では1996年1月1日より登場した新たな業態です。LLPは二人以上のものが事業をする団体で、オレゴン州では弁護士事務所や会計事務所といった専門的又は補完的サービスを提供する場合などに限られていますので、設立に際しては、専門家に事前に確認する必要があります。
LLPの場合も、オレゴン州法に基づき設立されたLLPを「自州LLP」、他州法に基づくLLPを「他州LLP」といい、取り扱い、規則や登録費用は他の業態と同じです。
LLPは、通算業態(Pass-Through Entity)で、LLP自体には課税されず、それぞれのパートナーに損益が通算されます。
 
 
G. 米国支店(U.S. Branch)
 
日本企業が本邦法人の米国支店として米国で事業を遂行する形態も選択できます。米国の支店は、別法人ではなく、日本企業の米国拠点というステイタスとなります。従って日本企業のオレゴン州の支店として自由に米国内で営業することができます。商取引・資産の所有はじめあらゆる行為が認められますが、一方米国支店としての責務は、一般米国法人やその他の事業体と全く同様で連邦や州の法規に従わねばなりません。また支店設置の場合は、法人設立の場合と同様、オレゴン州に登記し、必要な手続きを経ないと経済行為ができないことは言うまでもありません。
支店の場合、日本法人が最終的に支店の債務や義務、その他の負債を負う責任があります。その代わり米国支店の損益は、日本法人に原則として通算されます。