第3回 現地法人設立の前に(その二)
3.年次報告(Annual Report)
あらゆる法人は毎年オレゴン州に年次報告(Annual Report)を提出する義務があります。州の指定の報告書に登録更改費用を添え、毎年法人が設立された月日までに送付しなければなりません。フォームはこの期限(創立記念日)の45日前に指定の住所宛てに送られます。報告書内の情報に変更がある場合は、創立記念日から30日以内に手続きを完了しなければなりません。
更改費用は$100.00です。
4. 法人名の予約
将来法人を組成する計画がある場合、法人名を予約しおくことができます。オレゴン州企業局に$50のフィーを添え、申し込むと120日の間、名前が保護されます。
5. ビジネスの略称(Assumed Business Name)の登録
通常事業を行う場合、会社の法的な名称を使わず、ブランド名など略称を使って取引を行う場合が散見されます。また会社やオーナー個人のフルネームを出さないで、別の取引用の簡単な名前やニックネームで事業をする場合もあります。さらにオーナーが複数でCompanyとかAssociatesを付す場合もありましょう。これらの場合、一般社会で事業に使用する略称を登録しなければなりません。
略称を登録する場合は、カウンティー毎に登録することになっており、オレゴン州企業局に登録基本料金$50を添え、申請します。少なくとも1カウンティーで申請することが必要です。略称の登録は2年毎に更改しなければならず、更改フォームは、州から少なくとも期限の30日以前に郵送されますので、更改を要する場合は有効期限までに更改手続きをしなければなりません。
6. ブルースカイ法(BLUE SKY LAWS)
オレゴン州証券局は証券販売に関し規制を行っています。この法律を「ブルースカイ法」と呼んでいます。証券の種類は、株式、債券、パートナーシップ持分などです。また配当契約や付利契約も証券に範疇に含まれると解釈されています。外部から資金を調達する場合、すべてブルースカイ法によって規制を受けることになりますので、市場で証券引受けを募集する場合や証券の販売する場合、オレゴン証券法に基づき、発行する証券を証券局に届け出なければなりません。免除、例外規定もありますので、証券局か弁護士に相談しながら進めることが肝要です。
7. 営業許可の必要な事業
オレゴン州では、一般的な事業を行うに際し、営業許可を取得する必要はありません。しかしながら、特別の許可(Licenses)、認可(Permits)、資格(Certifications)を州当局や委員会から取得しないと活動できない業種・職種があります。このためオレゴン州は「ビジネス情報センター(Business Information Center)を設置し、ビジネス当事者を支援しています。また、許可や認可、資格をとるための情報も提供しています。
一方、市や郡で事業を行う場合、市や郡ベースで許認可が必要な場合もあります。ポートランド市庁舎内にポートランド許可局(Portland Bureau of Licenses)、セーレムには許認可申請センター(Salem Permit Application Center)があり照会に応じてくれます。
8. ゾーニング
オレゴン州には地域毎に厳しいゾーニングの規制があります。事業計画に合ったゾーニングが可能か、確認することが大切です。また、広告や駐車スペースなどの規制もありますので、これらを含め慎重に検討することが肝要です。
また自宅オフィスで事業をすることを制限している地域もありますので、居住している市や郡に確認すると情報を提供してくれます。
9. 税制の理解と把握
米国税法上、日本法人が米国で事業を行うと原則として米国の税制が適用され、米国源泉所得に対し所得税が賦課されます。さらに日本企業が、米国源泉所得がなくても、米国に源泉する受取配当金、家賃、利息やロイヤルティー(これらをパッシブ所得=Passive Income)などの収入がありますと、それらが支払われた時に源泉徴収税が賦課されますが、日本企業の場合は、50%超を出資した子会社ですと、日米租税条約により源泉徴収税が免除されています。
また、日本法人の米国エージェントや従業員が恒常的に米国内で事業を遂行していると、日本法人は米国で事業活動をしているものとみなされ、米国税法が適用されますので注意が必要です。
通常、日本に所在する企業が米国での商取引で得た所得に対し、日米租税条約が適用され、日本企業には米国税法が適用されず、米国に於ける課税が減免されています。しかし日本企業が陥りやすい「恒久的施設(Permanent Establishment = PE)」という、税法上大変重要な定義があります。日本企業の「恒久的施設」が米国にあり、と認定された場合、日本企業は米国の税法が適用されることになります。勿論先述の日米租税条約も適用されません。
一般に「恒久的施設」とは以下のようなものを指します。
- 支店(A branch)
- 事務所(An office)
- 工場(A factory)
- 作業場(A workshop)
- 自然資源採掘場・油井等
- 政府との正常取引等
- 一年以上機材を保有(建設現場など)
- 契約締結権限(一部制限ある商品買い付け権限を除く)
米国では日本ではお馴染みの「駐在員事務所」という定義はありません。すべては「支店」の範疇に入りことをまづ留意する必要があります。但し、次の5つの行為は日米租税条約により、「恒久的施設」とみなさないという特例があります。これがいわゆる我々がいう「駐在員事務所」で、次の5つの行為に活動が限定されている限り、米国法人所得税が免除されています。しかしこれら以外の行為を行うと即刻「恒久的施設」とみなされ、米国税制が適用されますので、注意が必要です。
- 商品等の保管・展示・配送。
- 保管・展示・配送のための在庫品等の保有。
- 第三者による加工のための商品等の保有。
- 商品等の買い付け、又は情報収集。
- 広告宣伝・情報提供・科学的調査、又はこれらに類する準備的補助的活動。
例えば、日本企業が米国のブローカーや独立した自らの事業を行う代理店と代理店契約を締結することは、原則として恒久的施設にはなりません。実態のステイタスがブローカーなのか独立したエージェントなのかが大変重要なポイントです。
ライセンスを供与しロイヤルティーをもらうことも、一般的には恒久的施設ではありません。では、恒久的施設とみなされず、一般の代理店契約を締結せずに、米国で市場開拓を始めたいと考えている日本企業は、日米租税条約を利用して米国で個人エージェント(Dependent Agent)を採用することです。これは良く使われている手法ですが、次の用件をすべて満たせば、恒久的施設にはなりません。
- エージェントが業務を遂行する事務所または一定の場所がないこと。
- 日本企業の名で契約を締結する権限を持たないこと。
この場合、日本本社で承認指示があった後、エージェントは請求書を発行することができ、また自宅に商品の保管をすることができます。最も大事なことは、エージェントの契約締結権限が法的に制限されていることで、エージェント契約や請求書/発注書にその旨明記されるべきです。
連邦及びオレゴン州の法人所得税
すべての事業体は、米国歳入法に基づく連邦所得税及びオレゴン州法に基づくオレゴン州所得税を納税し、毎年確定申告をする責務があります。さらに事業所の所在地によりポートランド市や郡の申告も必要な場合があります。例えばポートランドの場合、ポートランド市とマルトノマー郡の確定申告が必要です。
新たに事業するため法人形態を選定するとき、連邦及び州税制上いずれの形態が得策かを検討することが大変重要です。
会社を設立する時に、通常弁護士は、税制に係る届け出も行います。連邦には企業のID番号を申請すると番号が通知されるとともに、連邦確定申告書フォームや源泉徴収関連フォームが送られてきます。またオレゴン州には、同様の州のID番号を取得するために源泉徴収に関する届け出を出しますと、同様に番号が得られると共に、オレゴン州の確定申告フォームや源泉徴収関連フォームが送られてきます。これらが連邦及びオレゴン州の税制の基本的な情報になります。
また、連邦とオレゴン州は、連結納税制度を認めています。これは米国内にある親子関係の会社だけで、日本企業自体は対象とはなりません。また80%以上の出資比率がある親子会社グループでなければなりません。
オレゴン州は合算課税(ユニタリー税制)を採用していません。水際方式ですので、日本の親会社との合算課税問題の心配はありません。
自家営業(Sole Proprietors)の所得税
自家営業者は、IRSフォーム1040を申告しなければなりません。これにスケジュールC又はスケジュールC-EZを添付しなければなりません。自家営業者は、雇用主ですので社会保障税などはフルレートで支払っているはずですので、スケジュールSEも作成しなければなりません。一方オレゴン州は、フォーム40に連邦のフォーム1040の写しを添付し、申告しなければなりません。自家営業にも予定納税が適用されます。
パートナーシップの所得税
IRSにはフォーム1065で申告します。オレゴン州にはやはり連邦の写しを添付しフォーム65を以て申告します。
各パートナーはそれぞれフォーム1040で申告することは、自家営業者と同じです。オレゴン州も自家営業者と同じ要領でフォーム40を申告します。
LLCの所得税
原則としてLLCの申告方法はパートナーシップと同様です。尚、オレゴン州のフォーム65の頭部に「LLC」と明記しなければいけません。
LLCの各メンバーについても、パートナーシップと同じ要領です。
株式会社の所得税
IRSに申告するフォームは1120又は1120Aです。一方オレゴン州で事業をするか事業認可を得ている株式会社は、フォーム20に連邦フォームを添付して申告しなければなりません。オレゴン州で営業も事業認可もない株式会社は申告する必要はありませんが、オレゴン州源泉所得がある場合は、納税とフォーム20-I(連邦フォームも添付)の申告義務があります。
$500以上の納税義務があると予想される企業は、IRS及びオレゴン州歳入局に予定納税をしなければいけません。これを怠ると相応のペナルティーと遅延利息が課せられます。
予定納税
連邦税の予定納税
自家営業者、LLCメンバー、株主も,当期納税額が$500を超える場合,予定納税が課せられます。連邦の場合,原則として米国法人は,年間の税債務を予測し,4回分割で事前納税しなければなりません。納税には,従来フォーム8109を使用し、銀行納税しても構いませんでしたが、2013年より、原則として,全法人はIRSの電子納税制度(EFTPS)を利用するか、そうでない場合は、金融機関等に依頼して納税送金をしなければならないことになりました。
納税期限は:
暦年ベースの決算の場合:4月15日,6月15日,9月15日,12月15日
その他の決算の場合:決算日4ヶ月後,6ヶ月後,9ヶ月後,12ヶ月後の15日
上記の各支払額は,原則として次のいずれか少ない方の25%以上でなければなりません。
(1) 当年度の確定納税額の100%
(2)前年度の確定納税額の100%
但し,過去3年間のうち単年度で100万ドル以上の課税所得のある「大企業 (Large Corporations)」は,上記(2)の前年度実績方式を採用することを禁じられています。。予定納税がなされていないとペナルティーと遅延利息が課せられます。
オレゴン州の予定納税
オレゴン州にも予定納税制度があります。当期納税額が$500を超える場合,予定納税が義務づけられています。基本的には、連邦の予定納税制度に準じ,予定納税期限は連邦と同じです。
その他、業種により特別に課税される場合があります。例えばオレゴン州では、森林所有者に対する伐採税、タバコ販売税、酒類販売税、ガソリン販売税、トラック輸送税、ホテル/モテル営業税等です。
10. 動産の報告
すべての事業者は毎年郡査定局に事業動産の申告をしなければなりません。この申告書には、毎年1月1日午前1時現在のすべての事業所内の事業用動産を列記します。事業用動産が一つ以上の郡ある場合は、それぞれの郡に申告書を提出しなければなりません。
課税対象動産は、機械・家具・装置・工具・非在庫備品・リース機器・業務用書籍などです。現在事業に供していないものやすでに償却済みのものも課税対象となり、報告する必要があります。倉庫に保管されている交換用や販売用のものも課税対象で、報告しなければなりません。
申告期限は、資産が所在する郡の査定当局に3月1日までです。
不申告または遅延申告には、課税額の100%のペナルティーが賦課されます。
11. 環境保全規制
オレゴン州は環境を保全するために数々の規制/条件を義務付けています。詳しくはオレゴン州環境保全局(Department of Environmental Quality = DEQ)又は弁護士に相談することをお勧めします。
例えば、次のような事項が当局規制の対象とされています。
排水、汚水廃棄、工場排水。
排気、排煙。
石綿物質除去。
有害物質の処理・回収・廃棄。
ゴミ処理場、焼却炉等の無害物質の処理。
古タイヤの処理施設。
地下貯蔵タンク、備蓄タンクの所有と管理。
揮発物質の使用と貯蔵。
石油製品の地上保管と取り扱い。
5エーカー以上の開拓・造成・土木建築。
駐車場。
詳しくはDEQの”The DEQ Permit Handbook”に示されています。